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ローマ 引き継ぐ市民の木陰

2012年06月22日

 初夏の陽光の下、青葉が目に染みる。農地や丘陵を含めるとローマ市の64%は「緑地」。中でも市民に一番身近な緑がボルゲーゼ公園だ。16世紀以来ボルゲーゼ家の所有だった緑地を同名の美術館とともに1903年、市の公園とした。

 約80ヘクタールの敷地内には、ローマ名物のイタリアカサマツ900本ほどが威容を誇る。幹の先端にちょうど傘を開いたように枝葉が集中するのが特徴。古今の絵画によく登場し、街の景観に欠かせない樹木となっていて、19世紀末に植えられたものは高さ25メートルにもなる。

 最近、この大木の切り倒しが始まった。理由は老化だ。昨年6月、突然巨木が倒れたのを発端に、老木の科学的調査が始まった。一見頑丈そうに見えるが、樹齢100年を超して樹木としての生命サイクルが終わり、菌糸類に寄生されて根に力がなくなっているのが分かった。

 事故につながりかねない老木は計105本。市民に愛される大木を切り倒すのは市公園課にとっても苦渋の決断。野鳥たちの巣を壊さないように、環境・野鳥団体のボランティアが見守る中、作業は粛々と進められている。

 代わりに樹齢30年、高さ10メートルほどの同じ松が植えられる予定だ。総経費は50万ユーロ(約5100万円)。先人に感謝し、孫たちが木陰に憩う姿を夢想しつつ、景観を伝承していく。 (佐藤康夫)