2013年04月24日
「心の病気はまだ直らない。同じように家族を亡くして苦しんでいる人が村にはたくさんいます」。透き通るようなアンダマン海に面したタイ南部パンガー県ナムケム村。2004年暮れのスマトラ沖地震で、4歳の息子を亡くした母スワディーさん(46)に会った。
その日の朝も海辺の食堂兼住宅で、夫と開店準備をしていた。津波に気づいて1歳の娘を抱いて逃げたが、あっという間に波にのまれ、引き波で海へ。「必死に海面に顔を出していたら奇跡的にライフジャケットが海に浮かんでいた。それを着て私たちは助かったんです」
息子はスワディーさんの妹と逃げたが、2人とも泳げずに亡くなった。「3年間は息子の写真が見られなかった」。泳ぎが得意なのに息子を助けられなかったと、スワディーさんは自分を責めて泣いた。同じ境遇の人と何時間も語り合い、疲れて眠る毎日だった。
忙しい方がいいと思い、借金をして海辺で店を再開したが、仕事中につい、上の空になってしまう。投薬も受けたが、8年過ぎた今も「元気は60パーセントぐらいしか戻らない」。
男の子の写真を見せてもらった。海岸に座って、にっこり笑っていた。「一度は死んだ身だから海辺にいても怖くない。でも今、海は嫌い・・・」。母はそう言ってずっと海を眺めていた。 (杉谷剛)