2014年08月25日
子供のころから長年にわたってお世話になった米国人男性が亡くなり、東部ニュージャージー州の小さな町リーディントンで葬儀が営まれた。享年87歳。人生の多くを日本で過ごし、子供時代の私にとっては優しい、面白いおじさんだった。
葬儀に訪れると、棺(ひつぎ)が星条旗に覆われている。墓地まで行って、その理由が分かった。ラッパの音が響き、参列者が頭(こうべ)を垂れる。彼はかつて米軍の兵士だったのだ。
共通の知人に「彼が軍隊にいたとは知りませんでした」と言うと、「太平洋で日本と戦ったんだ」と静かな声で教えてくれた。そんな話は本人から一度も聞いたことがなかった。
私の知っている彼は、終戦直後の日本に渡り、日本と日本人を愛し続けた、優しくて面白いおじさんだ。後年、年老いて米国に戻る際に「これがないとリラックスできない」と、日本の風呂おけを船で運んだほどだ。
太平洋戦争の後、多くの米国人が日本に渡り、戦後の復興に力を貸した。かつて日本と戦った元兵士も多い。その1人だった彼の棺は、同じように日本を深く愛した奥さんの隣に埋葬された。(吉枝道生)