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歴史ロマンと名湯

歴史ロマンと名湯 熊本県山鹿市 いにしえの遺産に浸る

忠実に再現されたチブサン古墳内部のレプリカ。中央に2つ並ぶ円が乳房に見えることからこの名が付いた=山鹿市の熊本県立装飾古墳館で

忠実に再現されたチブサン古墳内部のレプリカ。中央に2つ並ぶ円が乳房に見えることからこの名が付いた=山鹿市の熊本県立装飾古墳館で

 重々しい保護扉の先に赤、白、黒で彩られた1500年前の黄泉(よみ)の世界が現れた。三角形、ひし形などを組み合わせた絵柄はデザイン力抜群。冠を着け万歳する人物像はまるで宇宙人だ。熊本県山鹿(やまが)市のチブサン古墳(国史跡)。石室や石棺に浮き彫りや彩色が施された装飾古墳の代表格で、近くの市立博物館が休館日を除き毎日、内部を公開している。海外からも注目される古代アートに前から興味があり、料金100円を支払って参加した。人気は高く20人以上が来る日も珍しくないらしい。

 見学前には、同市内にあり、装飾古墳の内部を忠実に再現したレプリカを多数展示する県立装飾古墳館で予習した。全国で確認されている装飾古墳は約700基。熊本には最多の約200基、特に山鹿を含む菊池川流域には約120基が集中するという。これほどの数が現代に受け継がれた背景の一つに独特の土地柄があると、愛知県出身の宮崎敬士学芸課長(52)は話す。

 「外から来た私には驚きでしたが、墓を信仰の対象として大切にする風習がある。手入れが行き届き、装飾古墳の敵となるカビやコケが入り込みにくい環境が保たれるんです」。絵柄にある2つの円が乳房に見えるチブサン古墳は、古くから「乳の神様」とあがめられる。市立博物館に聞くと「確かに酒や花束など供え物をたまに見ます。母乳がよく出るようにというお祈りでしょう」と返ってきた。

鞠智城の復元建物の中でもひときわ目を引く八角形の鼓楼=熊本県山鹿市で

鞠智城の復元建物の中でもひときわ目を引く八角形の鼓楼=熊本県山鹿市で

 このまちは歴史ロマンに浸りたい人にとって宝の山だ。東アジア情勢が緊迫した7世紀後半、大和朝廷が朝鮮半島の最新技術を使って築いたとされる鞠智(きくち)城(国史跡)は研究成果を生かして建物が復元され、歴史公園となっている。菊鹿(きくか)盆地を一望し、天気が良ければ長崎県の雲仙の山々まで見渡せる絶好の立地。広々とした芝生が心地よく、無料の資料館や展望台もあって、親子連れにおすすめだ。当時の他の城跡では見つかっていない八角形の鼓楼(ころう)は高さ約16メートルの堂々たる高層建築に復元され、ひときわ目を引く。昨春、日本城郭協会が「続日本100名城」の一つに認定し、遠方からを中心に訪問客が急増した。

山鹿灯籠の制作を実演する中村潤弥さん。キットを組み立てる約2時間の制作体験もできる=山鹿市の山鹿灯籠民芸館で

山鹿灯籠の制作を実演する中村潤弥さん。キットを組み立てる約2時間の制作体験もできる=山鹿市の山鹿灯籠民芸館で

 宿を取ったのは山鹿温泉。平安時代に発見されたといい、近世には豊前街道の宿場町となって栄えた市の中心部に広がる。「山鹿千軒たらいなし」とうたわれた豊富な湯量を誇り、創業110年と地元最古参の旅館・清流荘の平井英智専務(47)は「『ずっと入っていられる』とおっしゃるお客さまも。柔らかく、体への負担が少ない湯なんです。ごゆっくり」。まだ日の高い時間帯、眼前をゆったり流れる菊池川を装飾古墳のあるじや鞠智城の防人(さきもり)も眺めただろうかと想像しながら、露天風呂に身を沈めるぜいたくを満喫した。

 宿に近い山鹿灯籠民芸館では、室町時代発祥説もある国の伝統的工芸品「山鹿灯籠」の制作実演を間近に見た。灯籠に限らず、寺社や城、サッカーボールまで何でも精巧に造形する和紙工芸。訪ねた日は9人いる灯籠師の最若手中村潤弥さん(29)が、畳半分ほどの「座敷造り」(日本家屋)に取り組んでいた。今は8月15、16日の山鹿灯籠まつりで地元の神社に作品を奉納すべく、9人ともてんてこまいだ。

 10年前、61歳上の最長老に弟子入りし2年前に灯籠師になった中村さん。「地元産コウゾですいた和紙とのりだけを使い、曲線部分はのりしろなしで貼り合わせるなど厳しい条件の中で、いかに自分の手を動かし目指す物を実現するか。モノづくりの醍醐味(だいごみ)です」と目を輝かせた。先人の残した歴史遺産と、伝統を未来につなぐ若い力に元気づけられる旅となった。

 文・写真 谷村卓哉

(2018年7月13日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
山鹿市中心部の山鹿バスセンターへは熊本空港からバスで約2時間(熊本市中央区の熊本交通センターで乗り換え)。
福岡空港からバスで約1時間半(同市北区の植木インターチェンジで乗り換え)。
九州新幹線の新玉名駅からはバスで約50分。

◆問い合わせ
山鹿市商工観光課=電0968(43)1579

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やまが復刻紅茶

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★八千代座
1910(明治43)年、地元実業界が建てた芝居小屋で国重要文化財。
1973年に閉鎖されたが、17年前、鮮やかな天井広告画をはじめ全面的に復元修理された。
歌舞伎公演から住民の発表会まで幅広く使われ、公演日以外は館内見学できる。
電0968(44)4004

★金剛乗寺石門
空海の開創とされる同寺の参道に立つ。
珍しいアーチ形で19世紀初頭、眼鏡橋の築造技術を応用して建設された。

★やまが復刻紅茶
山鹿は1875(明治8)年、政府が国内初の紅茶伝習所を開いた「和紅茶発祥の地」。
一度途絶えたが近年、市内の業者が往時の製法を再現して復活を遂げ、人気上昇中だ。
肉厚の茶葉が原料で、甘くまろやかな口当たり。
藤本製茶=電0968(32)2540

★絵柄データを無償提供
県立装飾古墳館に申請し許可を得れば、装飾古墳のユニークな絵柄の数々を商品デザインなどに使える。
事業者、個人を問わず利用可。
じわり増加中の「古墳女子」もどうぞ。
電0968(36)2151

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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