2018年05月17日
欧州を厳しい寒波が襲った2月下旬、通勤電車を途中下車して、小さな湖に向かった。凍った湖の上を歩けるかどうか試してみたかったのだ。
気温マイナス10度。予想通り表面は凍っている。湖岸からそろそろと足を伸ばすと、「ちょっとちょっと、そこで氷に乗れるの」と50代とおぼしき女性が寄ってきた。アルゼンチンから出張でベルリンを訪れ、氷に乗ってみたくて来たという。
人生で一度も氷に乗ったことがないという女性は興味津々。「向こう岸まで歩きたいけど、安全かどうか自信がないわ。見て、日の当たる部分がまだ凍ってない。東の方によく凍る湖があるからそっちへ行ってみようかしら」と盛り上がっている。私はおっかなびっくり湖岸の氷に乗ってみたが、「地元の人が乗るのを見るまでは乗らない」と女性は眺めるだけだった。
はるばる日本と南米から来たいい年の大人が、氷に乗れる乗れないと騒ぐ姿はいかにも珍妙だが、未体験の自然現象への好奇心は万国共通かとも思う。
「あすはもっと寒くなるそうですよ」と声をかけると、「じゃあまた来るわ」と言って女性は去って行った。 (垣見洋樹)