2022年08月30日
ロシア西部にリャザンという地方都市がある。ここで1999年、アパートの爆破未遂が起きた。南部チェチェン共和国の分離派が仕掛けたテロだったとか、情報機関による爆破対応訓練だったとか、諸説ある。
一方、政府がチェチェン分離派を攻撃するため、テロを装って爆弾を置いたとの説も。プーチン大統領もこうしたうわさがあったこと自体は認めている。
アパートはロシアによくある無機質な高層ビル。外出するところだったナタリアさん(70)をつかまえて聞くと、発見された爆弾は午前5時に起動するようセットされていたとのこと。嫌な時刻だった。住民が寝静まっている頃。爆発物が前夜に発見されなかったら、多くの人は寝床にいたまま、がれきの下敷きになったはず。
「昔話ですよ。私たち庶民にとっては真相なんてどうでも良い」。ナタリアさんは話題を変えたがった。情報機関は住民にかん口令を敷いていた。警察が来て、職務質問を受けるのも面倒なので私も早々に去った。より多くの犠牲者が出る時刻に爆破しようとしたのは誰だろう。罪のない市民を相手に。 (小柳悠志)