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モスクワ テロの遺族 憤り今も

2023年04月12日

 モスクワで20年前、ロシアからの分離独立を目指すイスラム系のチェチェン人によるテロがあった。ミュージカルを上演中の劇場が占拠され、治安部隊が突入したことで、犯人と観客ら約200人が死んだ。

 10月、追悼式典で孫娘ダリヤさん(13)を亡くした年金生活者ビクトルさん(86)に出会った。孫を失った彼の憤りは収まらない。私を劇場の端の追悼碑に招き寄せ、治安部隊が観客ごと掃討したことをなじった。遺影のダリヤさんは笑顔だった。

 ビクトルさんは孤独だったに違いない。米国で中枢同時テロが起きた2001年以降、「テロとの戦い」と言えば何でも許される風潮はロシアでも同じ。国民は武力でチェチェン人に向かうプーチン大統領を褒めたたえた。「強いリーダーだ」と。

 「強いリーダー」は、その後も内外のテロリストをたたきつぶし、ウクライナ政府を「テロリストと同レベル」と呼び始めた。果たしてテロリストとは誰なのか?

 「劇場事件も今のウクライナも一連の出来事だ」。ビクトルさんは孫娘の遺影を前にこう誓った。「プーチンを大統領とは認めない」 (小柳悠志)