2008年11月21日
「車の中が見える!」。子供たちが歓声を上げる。用事があって家族で出掛けたシンガポール。空港から乗ったタクシーでまず彼らを驚かせたのが、車中の人がはっきりと見える車の列だった。
ふだん暮らしているフィリピンでは、多くの車の窓に黒いスモークフィルムがはられ、中は見えない。子供の通学バスも同様で、人が乗っているのかどうかすら分からない。
1年ぶりの“外国”で、すれ違う車を見ながら訳を聞く子供たちに答える。「シンガポールでは、強盗が突然車に乗り込んできたり、車から誘拐されたりはしないんだ。いきなり撃たれることもない」と話すと、「へー、シンガポールってすごいね」と素直に笑う。
フィリピンの真っ黒な車窓の背後にあるものは、絶望的なまでの貧富の格差だ。そして、拡散する銃と命の軽さ。シンガポールのような管理社会を称賛する気はないが、フィリピンの「自由」という言葉の無責任さが悲しい。 (吉枝道生)