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石家荘 容疑者の父のつらさ

2012年03月13日

 中国の春節(旧正月)明け。1年ぶりに訪ねたその人は目を見開くや、こちらの肩を抱きかかえ、すがるように言った。

 「息子に関する新しい知らせがあるんだろう? 息子は今、どうしているんだい?」

 2年前、中国製ギョーザ中毒事件の容疑者として拘束された男の父親(68)。

 河北省の省都・石家荘郊外、山肌がむき出しの寒村で、口のきけない妻と暮らす。テレビも電話もない。字が読めないから新聞も取っていない。世間から隔絶した生活。結果、容疑者拘束の報を受け、実家を訪ねたこちらから、つらい「事実」を聞かされることになった。「息子は?」と聞いてきたのは、あの日のことを覚えているからだという。

 あれから2度の春節を迎えた。いずれも嫁と孫が訪ねてきてくれ、一緒にギョーザをつくり、爆竹を鳴らした。でも、そこに息子の姿はなかった。

 壁には「自慢の息子」の写真を張っていたが、「写真を見るだけで、たまらなくなる」と、はがし、庭で燃やした。今も「畑を耕しては思い出し、涙。夢に出てきては、また涙」の日々を送る。

 息子には「罪をしっかり償ってほしい」と思っている。が、裁判の行方はおろか、消息がまったくないことが、1番つらい。そう話す目も潤んでいた。 (朝田憲祐)