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ニューヨーク 悲しき商魂の中でも

2021年12月15日

 2001年に米中枢同時テロの標的となった、ニューヨークの世界貿易センタービル跡地を訪れた。「グラウンド・ゼロ」として整備されたモニュメントには、亡くなった1人1人の犠牲者の名前が刻まれ、荘重な雰囲気を醸している。

 しかし、すぐそばには、その厳かな雰囲気に似つかわしくない売店が。「9・11」と書かれたマグネットやキーホルダー、傘など、観光地にあるような土産物を売っている。歴史的な悲劇の現場ですら、金もうけの源にしてしまう米国の商魂に一抹の悲しさを感じた。

 調べてみると、やはり遺族の中にも、愛する人を失った場所を金もうけの材料にされることに反対の声があるという。土産物店側からすれば「悲劇を忘れないために」というのが大義名分のようだが、それはモニュメントで十分だろう。

 「水は有料なのか?」-。その土産物店で、ホームレスとおぼしき男性が、ペットボトルの水を指さして店員に聞いていた。水は2ドルだったが、「俺が払うからいいよ」と店員。土産物店の無粋さに閉口していたが、店員の温かい気遣いに少しだけ救われた。 (吉田通夫)