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マドリード 「廃虚」に満ちる活気

2013年05月09日

 座ろうとしたベンチは、よく見ると冷凍食品の陳列棚だった。飲み物を片手に若い男女が談笑しているバーは、かつて買い物客の受付窓口だった場所のように見える。マドリードの下町。取材に訪れた市民運動の拠点はつぶれて半ば廃虚のようになった元スーパーだった。不法に占拠しているのだという。

 スーパーだけあってとにかく広い。1階は、不ぞろいの椅子とテーブルが持ち込まれ、巨大な社交場。2階、3階には、いくつもの会議スペースがあり、図書室、子どもの遊び場もある。数百冊が持ち込まれている図書室は文化、学術関係の書籍が充実していた。古着の交換コーナーというのもあって、子供服などが山積みだ。

 「ここで運動の方針を話し合い、地域の人とも交流する。開かれた拠点なんです」。案内してくれた20代の女性が教えてくれた。

 2000年代後半に不動産バブルが崩壊。以後、不況が深刻化し、失業率は上昇する。そして相次ぐ緊縮策。社会の格差拡大を憂う人々の抗議運動のネットワークが広がり、元スーパーのような拠点が生まれた。

 取材の間も拠点は地元の人らでにぎわった。廃虚のような空間に満ちる不思議な活気に、閉塞(へいそく)した社会を何とか自分たちの力で切り開こうとする人々の意志を感じた。(野村悦芳)