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モスクワ 芸術無視の国策映画

2017年12月22日

 9月末、ロシアで映画「クリミア」が公開された。その名の通り、3年前のロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合をテーマにした映画だ。

 まだ生々しい問題をどう扱い、どんなプロパガンダ(政治宣伝)を展開するのか、好奇心から映画館に足を運んだ。

 中身は恋愛ドラマだった。幕開けはウクライナ危機の前。首都キエフに住むウクライナ系の女性がクリミア観光に訪れ、地元に住むロシア系の男性と恋に落ちる。

 その後、親ロシア政権の打倒を目指すキエフでのデモ、クリミアの騒乱へと場面を移す。対立するウクライナ、ロシア両国の間で、運命に翻弄(ほんろう)される2人といった筋立てだ。

 政治色やウクライナ批判は思ったほどではなかったが、人物がまるで掘り下げられない脚本で「みんな争いをやめましょう」といった結末に鼻白んだ。

 ロシア軍の戦車がクリミアに上陸し、住民たちが歓迎する場面も。映画はロシア国防省の全面協力らしく、描きたいのはここかと思わされた。プーチン政権がメディア支配を進める中、芸術が後退していく実例を見た気がした。 (栗田晃)