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モスクワ 悪趣味な歴史博物館

2018年11月26日

 18階分の階段を下り、地下65メートルにたどり着くと、アリの巣のような空間が張り巡らされている。モスクワの冷戦時代に設置された核シェルターを利用した民営博物館を訪れた。

 核攻撃を受けた場合のソ連軍司令部となっていた施設。米国との核戦争に近づいたキューバ危機の際、幹部らが10日間連続でこもったという会議室もあった。シェルターでは600人が勤務したが、秘密保持は厳重。入り口は地下鉄と連結しており、一般市民には気づかれぬように職場に入ったという。

 知る人ぞ知る「観光地」として見学ツアーには各国の旅行者が多く訪れ「演出」も用意されている。大画面のモニターと指揮台がある部屋ではガイドの男性が、来場者を2人選び「核のボタン」を押させた。

 モニターには目標に向かうミサイルの軌道、きのこ雲、吹き飛ぶ建物、逃げ惑う人々が次々に映し出された。「核戦争を望むわけではない。子や孫にこのような光景を見せないことが目的だ」。ガイドの男性はそう言ったが、悪趣味。いまなお核兵器に「恐れ」ではなく「誇り」を抱く国の一端を見たようで後味が悪かった。 (栗田晃)