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台北 秘策「敵に票を注ぐ」

2019年10月21日

 「作戦大成功で韓氏勝利と連絡が来ました」。国民党の総統選予備選の結果発表を待っていた時、知り合いの台湾人から電話があった。南部の民進党の市議から韓国瑜(かんこくゆ)・高雄市長が国民党の候補に決まったとの知らせがあったという。

 なぜ、民進党議員が敵である国民党の韓氏の勝利のために作戦を実行するのか。不思議に思って知人に聞くと「灌票(かんひょう)ですよ」と言う。「灌」は水を注ぐの意味。つまり票の水増し工作をしたということらしい。

 市議らは、民進党の蔡英文(さいえいぶん)総統の対抗馬が、国民党の実業家、郭台銘(かくたいめい)氏よりも、失言の多い韓氏の方が勝ちやすいと考えたそうだ。予備選は電話による支持率調査だ。調査の電話は無差別で、国民党支持者だけでなく、民進党支持者にもかかるのがミソ。そこで電話があれば「韓氏支持」と答えるよう呼び掛けた。その結果、韓氏は勝利。民進党陣営は作戦が「大成功した」というわけだ。

 作戦の検証はできないが、韓氏の支持率は低下傾向だっただけに、圧勝した要因として多少の効果はあったのだろう。郭氏は不満だろうが、台湾の選挙戦術は面白い。 (迫田勝敏)