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ウィーン サメが泳ぐ高射砲塔

2019年11月29日

 以前、ベルリンで見学したナチス時代の高射砲塔が、ウィーンでは破壊されずに残っていると聞いて行ってみた。

 大戦末期に建設された高射砲塔は空襲から都市を守る防空要塞(ようさい)。対空砲を備えたG塔と指揮を担うL塔が1組で、ウィーン中心部を囲むように3カ所に計6基が現存している。
 
訪ねたのはシュティフツカゼルネ高射砲塔のL塔。高さは約47メートルで細長いビルのよう。コンクリートの壁面にガラス張りの増築部分が見えた。ここは今、水族館になっているのだ。

 ガラス張りの部分は温室で、熱帯の鳥や小動物が放し飼いにされていた。大水槽のサメやエイに歓声を上げる子どもたち。最上階の12階は展望カフェになっていて市内を一望できる。思わず戦争の遺物だということを忘れてしまいそうだった。

 でも、熱帯エリアを抜けた先に、高射砲塔の歴史を伝える博物館スペースがあった。通信室のような部屋が再現され、焼け焦げたヘルメットやガスマスクが戦禍を物語っていた。

 今では家族連れの憩いの場へと役割を変えた高射砲塔だが、その一角で戦争の歴史をちゃんと伝えていた。 (近藤晶)