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上海 感動では終われない

2020年02月12日

 中国で大ヒットしている映画「中国機長」を上海市内で見た。昨年5月に起こった四川航空機の緊急着陸を作品化したもので、中国版「ハドソン川の奇跡」とも呼ばれる。映画だから誇張もあるだろうが、いかに危機的な状況だったかを実感した。

 高度1万メートルで操縦席の窓ガラスが突然脱落。上半身が機外に吸い出された副操縦士は、シートベルトのおかげで危うく空中放出を免れた。客室はパニックに陥り、自動操縦ができなくなったため、機長は手動と目視で緊急着陸を決行し成功させた。

 映画は機長の的確な判断が、乗客乗員128人全員の命を救ったとたたえる。上映後の観客の顔に感動の表情が浮かぶ。建国70年に合わせて製作された愛国映画だから、どうしてもこういう描き方になるのだろう。だが冷静に考えれば、多大な犠牲者が出かねなかった「重大インシデント」とすぐ理解できる。英雄談どころではない。

 中国当局が事故直後に始めた原因調査は、1年半近くたった今も結論が出ていない。事故を英雄談で終わらせず、原因を徹底究明し、社会共通の教訓にする努力が続けられるか注目している。 (浅井正智)