2020年02月27日
電話帳ぐらい分厚い2冊組みの教科書は、手に持った瞬間に「これは危ないかも」と感じた。悪い予感は的中。香港から戻ると、北京空港の税関でとがめられ、破棄させられた。
教科書は香港の高校生が学ぶ「通識科」のものだ。詰め込み式教育を脱却し、「批判精神を養う」「社会問題のさまざまな考え方を学ぶ」などの触れ込みで10年前から必修となった。日本の「公民」に近いが、試験は正解を求めない記述式という。
中国の官製メディアは「通識科は香港の若者が中国に反発する元凶だ」とかみつく。教科書は北京に持ち込めず、じっくり読めなかったが、たしかに大陸ではタブーの天安門事件などの記述もあった。しかし、香港の高校生が全員学ぶ教科書を税関で取り上げても、歴史を抹殺できるわけでもあるまい。中国政府は何を恐れているのか。
税関職員は他の資料もじっくりと調べ、空港の外に出ると着陸から2時間以上がたっていた。午前2時の寒い北京で空腹を抱え、怒る気力も出ない。付言すると税関職員は全く威圧感がなく、とても親切だった。彼らが、取り上げた教科書を読んでくれればと願う。 (中沢穣)