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ルーマニア・トゥルゴビシュテ 独裁者 最後の部屋

2020年05月19日

 1989年12月のルーマニア革命でチャウシェスク大統領夫妻が銃殺された現場を訪れた。当時の衝撃的な映像は今も記憶に残っている。

 夫妻は、首都ブカレストで大規模な反政府デモが起きた翌日にヘリコプターで脱出。しかし逃亡の途中、反政権派に転じた軍に拘束され、特別軍事法廷で銃殺刑を言い渡された。

 処刑場となった軍施設は、首都から北西に車で1時間半ほどのトゥルゴビシュテにあり、現在は博物館として公開されている。中庭には、銃殺後に夫妻が倒れた体の位置が白いペンキで描かれ、背後の壁に生々しい無数の弾痕が残っていた。

 「今は外国人観光客が、たまに訪れるぐらい」と博物館の女性職員。夫妻が拘束されていた部屋には、シングルサイズの質素なパイプベッドが2つ寄り添うように置かれ、あるのは薄手の毛布だけだった。

 当時、国民には窮乏生活を強いておきながら、ぜいたくし放題の暮らしだったチャウシェスク夫妻。首都の私邸には屋内にプールや温室まで完備されていた。独裁者は最後に過ごした殺風景な部屋で何を思っただろうか。 (近藤晶)