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米キング郡 携帯画面越しの別れ

2020年07月29日

 米西部ワシントン州キング郡の警察幹部ミシェル・ベネットさん(51)は本紙の電話取材に訴えた。「自己隔離や予防策を怠ることで、知らないうちに最も弱い人々を死に追いやる可能性がある」。3月27日、母キャロランさんを新型コロナウイルスの合併症で亡くした。享年75。感染対策として見舞いを許されず、最期の別れも携帯電話の画面越しだった。

 家族が最期に立ち会えない苦悩を、現場の医療従事者もまた抱えている。キャロランさんを担当した看護師らの一人は地元メディアに「『さよなら』を直接言えない経験を皆さんや皆さんの家族にしてほしくない。お願いだから(他人と間隔を取る)社会的距離と自宅待機を続けて。永久に続くことではありません」。携帯電話を通して別れの言葉を紡ぎだすベネットさんを見て、こらえ切れずにその場を離れる看護師もいたという。

 キング郡で新型コロナの犠牲者はキャロランさんが95番目だった。2週間後、その数は3倍に増えた。ベネットさんは言う。「単なる数字ではない。一人一人に家族や愛する人たちがいるし、愛され、頼りにされているのです」 (赤川肇)