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エジプト・イスマイリア 忘れられぬものは…

2021年05月07日

 「明日、人生で忘れられないものを見るだろう」。スエズ運河庁の報道官が会見後、意味ありげに笑ってみせた。エジプト北部スエズ運河の座礁事故で、運河庁が航行再開を発表した夜のこと。翌朝、北部イスマイリアの会場に向かった。

 「人生で忘れられないもの」とは何だろう。運河全体の報道ツアーか、それとも座礁船への乗船か。でも、権威主義のエジプトだから、やはり大統領ではないか。考えを巡らせ街へ入ると、一帯は厳重な警備が敷かれ、大統領が正解のようだった。

 エジプトでは大統領の存在が非常に大きい。今回の座礁事故でも、運河庁長官は会見で「離礁できたのは大統領の指示のおかげ」と繰り返し、国内メディアも同様に報道。エジプトには大統領に批判的なメディアはなく、政府系メディアが日々、「偉大な大統領」を報じている。

 この日、「人生で忘れられないもの」を見たのは一部メディアのみ。私も含め30社ほどが入場を拒否され、近くの公園で待機を命じられた。そこから運河がよく見え、大型船が通るたび、撮影のため各社と走った。この出来事が「忘れられないもの」となった。 (蜘手美鶴)