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モスクワ 車内放送にモヤモヤ

2021年06月23日

 モスクワの地下鉄に、おもしろい特徴があることに気づいた。「次の駅は…」で始まる録音の車内放送が、郊外から都心に向かうときは男性の声、都心から郊外に向かうときは女性の声になるのだ。

 市民の間ではこんな俗説がある。都心方面への案内は「遅れず職場に来い」という男性上司の呼び掛けを、郊外方面への案内は「寄り道せずに早く帰ってらっしゃい」という妻の招きを意味するのだと。

 多くの市民が郊外から通勤するのは確かだが、この俗説は妻が家庭で夕食を作るのが前提。こんな話が通用するのも、昔ながらの価値観が根強く残るロシアらしい。

 最近、地下鉄でもうひとつ気になったことがある。2018年のサッカー・ワールドカップ(W杯)ロシア大会を機に導入された英語の車内放送が中止されたことだ。米ロ対立の影響ではと疑ってしまう。

 2カ国語の放送は、少数者への気遣いとも言える。多民族国家ロシアでは、公共交通の案内が複数の言語で行われることも珍しくない。英語を排除することに、不安を覚えるのは私だけだろうか。

 (小柳悠志)