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パリ ハヤブサ観察が日課

2021年08月02日

 「迷っているヒナを見かけたら連絡してください」。子どもたちを小学校へ送ったある朝、校門に掲示された張り紙が目に留まった。写真の鳥は、ハヤブサのように見える。パリの都心部にいるわけがない−。半信半疑で調べると、米誌ナショナルジオグラフィック電子版の記事を発見。一度は消滅したハヤブサが10年前からパリに帰還し、毎年春から夏にかけて私が住むマンション至近の煙突に巣を作って子育てしているという。

 張り紙に連絡先があった保護団体に取材し、日暮れ時に活発に動くことを教えてもらった。日没が近づく午後9時ごろ、窓の外を眺めていると、それらしき鳥の姿が。双眼鏡をのぞくと、まさにハヤブサ。周囲のマンションの屋上から屋上へと飛び回る姿は実に優雅で、すっかりハヤブサ観察が日課になった。

 姿を現すサインとなるのが、甲高い鳴き声。ある晩、その声がすぐ近くで聞こえたと思ったら、私の部屋の窓の踊り場にヒナがちょこんと止まっていた。愛らしい表情でこちらを眺めた後、たどたどしく飛び去っていった。その日はちょうど私の誕生日。思いがけないプレゼントになった。 (谷悠己)