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バンコク 浮かぬ宅配ライダー

2021年10月11日

 昨年来の新型コロナウイルス禍で、都市封鎖が繰り返されるバンコク。暮らしも経済も疲弊する中で、気を吐いているのがデリバリー業界だ。外出自粛や店内飲食の禁止を追い風に、料理や日用品を宅配するバイクライダーが街を飛び回っている。

 主流の各社はピンクや緑、紫などのコーポレートカラーで競い合い、制服は子供服も売られるほど人気だ。「懸命に働けば、それなりの実入りにはなる」と転職3カ月のスパナットさん(29)。だが、気分は浮かない。

 家業の観光業の手伝いと、夜のバーの歌手をしていたが、立ちゆかなくなった。注文に素早く応じ、効率よく長時間稼働すればこれまでの実入り以上にも。ただ、バイクの運転は得意ではない。連日のスコールで事故と隣り合わせ。何より「以前は将来の夢があったが、今は時間が過ぎていくだけ」とこぼす。

 唯一、雨や急ぎの配達などで「感謝」が直接届くことに手応えを感じるという。「喜びを届けられる仕事に就きたい。次のステップのきっかけになれば」。ささやかな応援のつもりで、注文用のスマホアプリにある、便利なチップのアイコンを押した。 (岩崎健太朗)