2022年01月28日
青や緑など鮮やかな色彩の大小のキャンバスに、紙飛行機が描かれている。ソウル市内の総合病院内のギャラリーで、入院患者の女性が穏やかな表情で絵を見つめて言った。「かわいい紙飛行機。私も早く治って外に飛び出したくなる。頑張ろう」
ギャラリーの隅で、観覧者らの声に手応えを感じていたのは、作者の安忠国(アンチュングク)さん(26)。北朝鮮北部の町で生まれ育ったが、2009年に家族で脱北して韓国に来た。飲食店の出前ライダーのアルバイトをしながら、芸術大で学んだ。今年から個展を開き始めた新進気鋭の画家だ。
紙飛行機を描くようになった経緯を聞いて、ハッとさせられた。北の故郷で幼いころ、絵の手ほどきをしてくれた親戚のお姉さんがいた。彼女は安さん一家よりも先に脱北し、音信不通になってしまったという。
脱北女性が中国で捕まって強制送還されたり、中国人男性と望まない結婚をしたりする話も多い。「もしやお姉さんも?」との不安もあるが、安さんは紙飛行機を「お姉さんにつながる象徴。必ずまた会える」と信じて描く。彼の絵をお姉さんが見られる日が訪れることを私も祈ろうと思った。 (相坂穣)