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仏中部ルマン 反戦叫ぶ91歳の気迫

2022年11月01日

 「お待ちしていました」。そう言ってドアを開けてくれた男性のキビキビとした言動に、91歳の本人ではなく執事なのか、と思ってしまった。ナチス・ドイツによるユダヤ人の迫害(ホロコースト)を生き延びたジョゼフ・バイスマンさんを取材するため、フランス中部ルマンの自宅を訪れた時のことだ。

 80年前の夏にパリで起きたユダヤ人一斉検挙の末、両親と2人の姉妹を失いながらも収容所から脱出し、孤児として生き抜いてきた。その半生を振り返る言葉は迫力にあふれ圧倒されたが、ロシアによるウクライナの軍事侵攻に話題が及ぶと、言葉のすごみがさらに増した。

 自身と同じ戦争孤児が増え続けている現状に「胸が締め付けられている。体が動かず、現地で彼らの力になれないのが悔しい」と語った上で「日本の読者に伝えてほしい」と頼まれた。「この戦争を止めるためにあらゆる努力をすべきだということを皆さんが訴え続け、日本政府を動かさないといけません」

 日本人も遠い国のできごとだと思うのではなく、当事者意識を持つべきだ-。戦争の悲惨さを誰よりも知る人の言葉の重みをかみしめている。 (谷悠己)