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イラク・チバイッシュ 修業不足の携帯と私

2023年02月20日

 イラク南部のチバイッシュ湿地を取材中、沼地のど真ん中で突然携帯電話の電源が落ちた。「携帯電話を冷やしてください」。真っ黒になった画面に、初めて見る赤い警告文が浮かんでいた。頭上の太陽が照り付け、携帯が異常に熱い。「これがイラクの太陽か」と恐れ入った。

 チバイッシュ湿地では近年、気候変動などの影響で水位が著しく下がっている。降水量は年々減り、気温はじりじり上がる一方。湿地は部分的に干上がり、ひび割れた大地にクモの巣が張っていた。10月上旬でも気温は40度近かった。

 イラク南部では真夏は55度を超える日もある。しかも、夏場は電力供給が不安定で、停電で丸2日冷房が使えない日もあるというから驚きだ。南部に住む友人は「シャワーを浴びて外に出た瞬間に乾く」と笑っていたが、笑い事ではないだろう。

 湿地からの帰り道、車内の冷房でひたすら携帯電話を冷やした。なかなか電源が入らず、諦めかけたころにようやく復活した。日陰のない湿地帯は確かに暑く、たった2時間でだめになった携帯電話と私。イラクの夏を過ごすには、まだまだ修業が足りないようだ。 (蜘手美鶴)