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イラク・バスラ 10年前の彼女の現在

2023年02月07日

 イラク南部バスラを取材で訪れた。目的は約10年前に日本で取材したイラク人女性医師ワサンさん(46)に会うため。花束を持って空港で出迎えてくれた彼女の顔を見て、たまらないうれしさが込み上げてきた。

 ワサンさんは2013年、名古屋市の大学病院で研修を受けていた。彼女の専門は小児白血病。文化も風習も異なる日本での研修は大変だったと思うが、医師たちから学ぼうとする熱意がひしひしと伝わってきた。

 その熱意には理由がある。南部最大都市バスラは湾岸戦争(1991年)とイラク戦争(2003年)の主戦場だった。戦後、米軍などが使った劣化ウラン弾の影響とみられる小児がん患者が急増。悲惨な状況を前に、「1人でも多く助けたい」との思いが原動力になっていた。

 ワサンさんの働く様子を見せてもらった。病床の小児患者の往診では、かがみ込んでは、ひとりひとりに「ご飯は食べた?」「気分はどう?」と声をかけていく。患者との向き合い方は「日本式」だという。「患者としっかり話すことが、治療にもいい影響を与えるの」。その笑顔はとても頼もしく、思わずカメラに収めた。 (蜘手美鶴)