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米ニューオーリンズ 幌を開けてみたら…

2023年03月13日

 出張先の米南部ニューオーリンズの空港に降り立ち、レンタカー店に着くと、いきなり難しい選択を迫られた。小型車を予約しておいたはずだが、店員の女性は「今はピックアップトラックかオープンタイプのスポーツカーしかありません」。

 どちらも運転したことがない。苦情を言おうかと思ったが、「同料金で上級の車に乗れてよかったですね」と機先を制され、やむなくスポーツカーを選択した。幌(ほろ)を閉じて取材の目的地に向かう。

 「川べりで話しましょう」。待ち合わせ場所に着くと、取材相手の大学教員アンドレア・ボイルズさんに、この街を流れる雄大なミシシッピ川にいざなわれた。テーマは今も米国に根強く残る黒人差別問題。自身も黒人女性のボイルズさんは、インタビュー後「ここはかつて多くの黒人奴隷が運ばれてきた河岸です」と教えてくれた。

 周囲を見ると、18世紀初頭にアフリカから最初の奴隷船が着いたことを案内するプレートも立っていた。帰り道、車の幌を開けてみた。川からの風が街の名物ジャズの音色を運んでくれたが、心なしか少し悲しく響いた。 (杉藤貴浩)