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プノンペン 消さない 虐殺の記憶

2023年03月14日

 カンボジアの首都プノンペンにある「トゥールスレン虐殺博物館」を訪れた。ポル・ポト政権時代、1万2000〜2万人が収容され、拷問・処刑が行われた場所だ。確認された生存者はわずか12人だったとされる。

 もとは高校の校舎だった。だが、同政権下で建物内に響いたのは学生の笑い声ではなく、収容者の叫び声だった。尋問室の窓には鉄格子が取り付けられ、収容者の悲鳴が外に漏れないよう通気口はふさがれたという。

 床に残る染みは血の痕だろうか。鉄製のベッドの上には、足かせと排せつ用の弾薬箱が置かれていた。収容者が飛び降り自殺をしないよう有刺鉄線が張り巡らされた棟もあった。拷問の様子を描いた絵や実際に使用された器具、収容者の写真、頭蓋骨…。生々しい証拠の数々に、思わず目をそらしたくなった。

 1975〜79年にカンボジア全土を支配し、都市住民を農村で強制労働させたり、知識人を殺害したりするなど極端な共産主義政策を進めたポル・ポト政権。大虐殺を裁く特別法廷は今年9月、審理を終えた。だが、この蛮行は風化させてはいけないだろう。宿に戻り、すぐに筆を執った。 (藤川大樹)