2023年06月21日
「私の心に黒い穴があいてしまった」。ウクライナ東部出身のイリーナさん(30)が、絞り出すように話した。数年前にエジプト人と結婚し、今はエジプト東部シャルムエルシェイクで暮らす。ロシアのウクライナ侵攻1年を前に、現地で取材したときのことだった。
イリーナさんの弟2人は現在戦場でロシア軍と戦っている。毎日エジプトから無事を祈り続けるが、戦死者を伝えるニュースを聞くたびに体が震え、何もできない自分にいら立ちを覚える。そんな中、街中で楽しそうなロシア人観光客を見かけると黒い感情が湧いてくるという。
イリーナさんの実家は対ロシア国境から30キロほどで、昔からロシアは身近だった。侵攻前まではロシアに悪い感情はなく、親戚も何人かはロシアにいた。まさかロシアが攻めてくるとは思っていなかったという。
ロシア人観光客に罪がないのは分かっているが、弟たちを思うと気持ちが抑えられない。そして、そんな自分が嫌になる。「こんな感情が私にあると思わなかった」とイリーナさん。その苦しそうな顔を見て、いてもたってもいられず、思わず彼女を抱き締めた。 (蜘手美鶴)