地球はS極とN極の位置が入れ替わる「地磁気逆転(ポールシフト)」を繰り返してきたという。77万年前に起きた逆転で現在の地磁気となった。その証拠となる地層が千葉県市原市の養老川渓谷にある。昨年10月15日に国の天然記念物に指定された「養老川流域田淵の地磁気逆転地層」だ。「チバニアン」という言葉のほうがなじみがあるかもしれない。
市原市の中心部から「清澄養老ライン」と呼ばれる県道81号を南へ10キロ余り、車で15分ほど走ると田淵地区に出る。地域住民施設「田淵会館」が目印だ。案内板の脇の道を入って約100メートルの所に仮設の駐車場がある。
「地球磁場逆転期の地層」と書かれた案内パネルに従って、舗装された細い道を下ると、約10分で養老川の右岸に出る。川の浸食で渓谷ができ、高さ10数メートルの地層が露出している。
浅い流れの中に立って川底を見ると、あちこちに小さなくぼみがある。貝などの海洋生物やその生活の跡の化石だ。養老川は化石の宝庫でもある。
20メートルほど上流に歩くと、地磁気逆転を示す地層の前。崖を見ると、試料を採取した多数の穴が開いている。そばに、下から赤、黄、緑の順で何本ものくいが縦列に打ち込まれていた。
赤と黄のくいの境目辺りの白い地層は、長野県と岐阜県にまたがる御嶽山の噴火による火山灰層で約77万年前のもの。その下の赤の部分は地磁気が現在とは逆転していた時代、上の黄は地磁気が不安定だった遷移時代、最上部の緑が現在の地磁気になった時代の地層だ。
案内のボランティアガイドの石井あゆみさんが「房総半島は海底数100メートルに砂と泥の層が積み重なった地層が隆起したものです。泥岩に含まれる磁性鉱物は固まるときに磁力に向けて並ぶため、地層の磁界を測定すると、S極とN極の方向が分かります。(特殊な磁力計を使った)精密な調査で、赤いくいの地層では磁極が現在と完全に逆だと証明されたのです。普通の磁石では全く反応がありませんよ」と説明した。
地球の地質時代区分を示す地層が、地殻変動や川の浸食作用などの偶然が重なって人目に触れるようになっている。知識のないわが目には「ただの崖」にしか見えていなかったが、説明を聞きながら、地球の歴史を身近に感じ始め、自分は地球の一部との思いに襲われた。
約46億年の地球の時代区分で、地磁気逆転が起きた77万年前から12万6000年前の更新世中期には名前がない。国際地質科学連合は田淵の地層をこの時代の代表的地点と認定して、チバニアン(千葉時代の意)と命名する見通しとなっている。
地元では、地層を理解してもらうには、現地での手助けが不可欠だとして、石井さんを中心にボランティアガイドの養成が進められている。研修中の男性はボランティアへの参加は「田淵を知ってもらいたいから」と言い「訪問客が増えていくでしょうから、整備しながら、どう保全していくかが今後の課題ですね」と話していた。
地球の歴史に印象付けられた後は、養老川に沿うように市原市中心部に向かう。東京湾に流れ込む養老川の河口まで行くと、埋め立て地に京葉工業地域が広がっている。その中にある公園で日没を眺めた。
1日の終わりにふさわしいと思いながら振り返ると、パイプが複雑にめぐらされたプラントの点灯が始まっていた。工業地帯のさえた夜景は、一気に時空を超え、人間の営みを見せ付けていた。
文・写真 若松篤
(2019年3月29日 夕刊)
メモ
◆交通
東京駅からJR内房線の五井駅へ、小湊鉄道に乗り換え、月崎駅で下車。
田淵会館までは約2キロ、徒歩30分。
◆問い合わせ
市原市教委ふるさと文化課=電0436(23)9853
おすすめ
★地磁気逆転地層の見学
見学は自由、無料。
しっかりした靴が望ましい。
ボランティアガイドは現在、試行的に行われており、案内を希望する人はふるさと文化課に相談を。
★国登録有形文化財・小湊鉄道駅舎群等
小湊鉄道は1928年全線開通という歴史を持ち、馬立駅など関連施設22件が国の登録有形文化財に指定されている。
詳細は小湊鉄道のホームページで。
★養老川臨海公園
五井駅からタクシーで約10分。
駐車場約200台。
日没後、周辺の石油化学プラントなどが工場夜景の人気スポットになっている。
★加茂菜
市原市加茂地区などで栽培され、生産量が少なく「幻の野菜」と呼ばれる。
2、3月が収穫期。
塩漬けで市内の農産物直売所で200グラム200円ほど。
「道の駅あずの里いちはら」では加茂菜定食を4月中旬ごろまで650円で提供している。
事前にチェックを。
電0436(37)8891