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知床の流氷ウオーク

知床の流氷ウオーク 北海道斜里町 豊かな“白い大地”探検

浮力が強く、温かいドライスーツを着て、流氷の海で浮かぶ流氷ウオークの参加者=北海道斜里町で

浮力が強く、温かいドライスーツを着て、流氷の海で浮かぶ流氷ウオークの参加者=北海道斜里町で

 世界自然遺産で知られる北海道・知床には、1月末から3月にかけ、大量の流氷がやってくる。オホーツク海に面した斜里町ウトロ周辺で接岸した流氷の上を歩いたり、海に浮いたりする「流氷ウオーク」が人気と知り、3月初めに訪ねた。

 女満別空港からバスで約2時間。流氷船で知られる網走にはすでにほとんど流氷がなく、不安に駆られたが、ウトロに到着して驚いた。国道沿いのペレケ湾は岸から数100メートル沖まで氷で埋め尽くされ、陸との境が分からないほど。波の音もない。

 北海道の流氷は、ロシア・アムール川の水で薄まった塩分濃度の低い海水の層がシベリアの強い寒気で凍り、オホーツク海北部から季節風や海流で南下。知床半島が受け皿のようになり、北海道でも知床が最も遅くまで流氷を見られる。

 着岸場所から直接、流氷に乗ることができるが、落ちれば、数分で死に至る極寒の海。本来一般の人が無防備に乗ることは極めて危険だ。ウオークでは浮力が強く、温かい専用のドライスーツを服の上から着込み、専門知識のあるガイドが引率。安全に楽しめる体験型観光として20年ほど前に始まり、冬の知床観光の目玉となっている。

 「ここから海です。スケートリンクの上を歩いているつもりで」。ウオークの草分け「シンラ(知床自然ガイドツアー)」のガイド服部留奈さん(23)の先導でペレケ湾の堤防を下り、岸から流氷へ渡った。ぐらつくと思いきや、湾内で押し固められ、10人近い参加者が歩いてもびくともしない。

ぶつかり合い、せり上がった流氷原を歩くことができる

ぶつかり合い、せり上がった流氷原を歩くことができる

 ぶつかり合った氷が大きくせり上がった姿は現代アートのよう。太陽の当たり方で色合いも変わり、目が奪われる。長靴と一体のつなぎのスーツで、ごつごつとした真っ白い氷原を進むと、宇宙服で未開の星を探検しているようだ。

国道沿いに姿を見せた野生のキタキツネ

国道沿いに姿を見せた野生のキタキツネ

 大きな影が頭上をよぎった。黄色いくちばしが特徴のオオワシだ。翼を広げると2メートルにもなり、冬にロシアから渡ってくる。氷に積もった雪の上には肉球のような足跡が。「キタキツネです」と服部さん。ワシなどが食べ残した魚を狙って陸の野生動物も流氷に現れるという。

 湾の入り口あたりで流氷が途切れ、いよいよ海の中へ。流氷に腰掛け、ゆっくり海に入ると、強い浮力でぷかりと浮いた。巨大な氷の塊の横で空を仰ぎ、気分はラッコだ。

 水上では白く見える流氷も、水中にある底の部分は茶褐色。たくさんの植物プランクトンがはりついているためで、春に流氷が解けると大増殖する。服部さんは「それをエサに、動物プランクトンや魚が育ち、その魚をアザラシやワシ、ヒグマなどが食べ、豊かな知床の自然をつくっている」と話す。

 実は服部さんは三重県四日市市から3年前に移住。水族館のシャチのトレーナーを目指していたが、専門学校の研修で訪れた知床の自然にほれ込んだ。夏には豊富な魚などを求めて野生のシャチもやってくる。

 ただ、その源の流氷も変わりつつある。地元で民芸品店を営む梅沢征雄さん(76)によると、梅沢さんが子どものころは押し寄せた流氷が3~4メートルまでせり上がる「流氷山脈」がたくさん見られた。だが、温暖化の影響か、現在は流氷が小さく、密度も低くなったと感じている。

スノーシューを履き、凍った湖の上から知床連山を見る=北海道斜里町で

スノーシューを履き、凍った湖の上から知床連山を見る=北海道斜里町で

 翌日、認定ガイドの案内で知床連山のふもとにある知床五湖周辺の森や凍った湖の上をかんじきのようなスノーシューを履いて散策。何頭ものキタキツネやエゾシカに出会い、生態系の豊かさに感激した。湖近くの丘から望むオホーツク海には南風を受けて離岸する流氷が見えた。もうすぐ春だ。

 文・写真 山本真嗣

(2019年3月22日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
女満別空港からバスでJR網走駅へ。
JRに乗り換え知床斜里駅下車。
バスでウトロ温泉バスターミナル下車。
冬期(終了)と夏期は空港から直行バスがある。

◆問い合わせ
流氷ウオークは主に3業者が2~3月ごろ開催(今季は23日までに終了)。
シンラは小学生~75歳未満対象で、小学生2600円、中学生以上5100円。
シンラ=電0152(22)5522。
知床斜里町観光協会=電0152(22)2125

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無料。
電0152(24)3255

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斜里町が漁獲高日本一のサケをひつまぶし風に食べる「北こぶし知床 ホテル&リゾート」の創作料理。
1杯目は地元産のサケと山菜の炊き込みご飯、2杯目は特製だれの漬けをのせ、3杯目は羅臼昆布などでとっただしをかけて。
料理長と名古屋出身の社員のアイデアで数年前から朝食ビュッフェの名物に。
同ホテル=電0152(24)2021

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