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田代島

田代島 宮城県石巻市 飽きない猫の“ドラマ”

(左)似た柄の猫たちがくつろいでいる (右)民家の玄関で日なたぼっこしながら眠る猫たち

(左)似た柄の猫たちがくつろいでいる (右)民家の玄関で日なたぼっこしながら眠る猫たち

 島民60人、猫130匹。早朝に名古屋を出て6時間半、ようやく宮城県石巻市の牡鹿半島沖合にある小さな島にたどり着いた。コンビニも、郵便局も、交番もない。信号機もなければ、現金自動預払機(ATM)も、学校も、食堂もない。ないない尽くしだが、猫を目当てに国内外から年間約2万人の観光客がやってくる。

 島の北部に大泊(おおどまり)、南部に仁斗田(にとだ)の2つの港があり、港近くに集落がある。午後1時半、仁斗田港に着くと、今夜泊まる民宿「網元」の遠藤モト子さん(80)が、電動車いすのシニアカーで迎えに来てくれた。さっそく民家の玄関では、4匹の猫が日なたぼっこ。しっぽが短めな猫もいれば、ふさふさの猫も。灰色の猫は夢の中。長毛のキジトラが体をすり寄せてきた。

(左)猫神さまがまつられている猫神社 (右)「島のえき」の前でニャーと鳴く猫

(左)猫神さまがまつられている猫神社 (右)「島のえき」の前でニャーと鳴く猫

 ノートとカメラを持って散策へ。島では、古くから大漁を招くとして猫が大事にされてきたという。2つの集落をつなぐ島の中央には「猫神社」がある。明治から大正にかけて、島では定置網漁が盛んに行われていた。ある日、いかりを作るために石を砕いていたところ、かけらが猫に直撃し、瀕死(ひんし)の重傷を負わせてしまった。その後の猫の安全と大漁を祈願して、猫神さまをまつったと言われている。

 仁斗田の中心地から猫神社まで約1.4キロ。猫を数えながら歩く。観光客の交通手段は徒歩のみ。沿道に茂る木々の葉がこすれる音が心地いい。めったに車が通らないため、道路の真ん中に猫が座っている。きょうだいだろうか、白黒の似た模様の4匹がこちらを見詰める。「正」の字がどんどん増えていく。

 猫神社の200メートル手前には、猫グッズや軽食を販売する「島のえき」がある。島民らでつくる島おこし組織「田代島にゃんこ共和国」が、2016年に開設した。公衆トイレもあり、多くの観光客が休憩していく。ここにはなんと、10匹以上の猫が。テーブルの上でわが物顔で横たわる大きな猫。手すりに上り、「構って」と大声で鳴く猫。埼玉県から来た大学生佐野日向子さん(19)は「人生で1番猫に会った日。自然いっぱいで、猫たちも人懐こくて楽しい」と話す。

 しばし休み、猫神社へ。小さなほこらにはたくさんの招き猫がお供えされている。愛猫と全ての猫の健康を祈った。結局、ここにたどり着くまでに50匹以上の猫に出合った。

(左)網で爪研ぎをしていると、後ろから大きな猫が来て一触即発 (右)いきなりけんかが始まった

(左)網で爪研ぎをしていると、後ろから大きな猫が来て一触即発 (右)いきなりけんかが始まった

 帰り道、午後3時半発のフェリーの汽笛が響く。沿岸では、東日本大震災で被災した海岸の護岸工事がいまだに続いている。震災では1人が行方不明になり、海沿いの家屋やカキの養殖施設は全壊。多くの船も流された。島を出て行った人も多いという。昔から住んでいる人のほとんどが80歳以上だ。

 民宿で夕食をとっていたら、モト子さんが「猫を見たいなら朝、港に来ればいい」と教えてくれた。消灯は午後9時。島は静寂に包まれる。

 午前5時半、港に向かうと、モト子さんと、夫で漁師の常雄さん(81)が網に引っ掛かったウニを外していた。バケツには、とれたばかりのカレイやアイナメ。白黒の猫5匹がおこぼれを狙っている。待ちきれずに近づこうとして、他の猫にパンチされる猫も。最後まで残っていた2匹が、スイという魚をもらった。コリコリと骨を砕く音を響かせ、数分でたいらげた。

 この日は昼ごろから雨が降り、3月末にもかかわらず、雪になった。さっきまで雨宿りをしていた猫たちは、どこに行ったのだろうか。6時間半の旅に向けて、フェリーに乗り込んだ。

 文・写真 石川由佳理

(2019年4月12日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
JR石巻駅下車。
同駅から「網地島ライン」石巻中央発着所までバスで15分。
石巻中央発着所から船で35~55分で大泊港、45分~1時間で仁斗田港。

◆問い合わせ
石巻観光協会=電0225(93)6448
網地島ライン=電0225(93)6125

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マンガアイランド

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猫アート

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★マンガアイランド
仁斗田にある石巻市営のアウトドア宿泊施設。
石巻市にゆかりがある漫画家石ノ森章太郎さんとつながりが深い、ちばてつやさん、里中満智子さんら5人の漫画家が、猫をモチーフにデザインした5棟のロッジとキャンプ場がある。
今年は20日~10月末、利用できる。
開館中は有料で自転車を借りられる。
石巻市観光課=電0225(95)1111(閉館中)
マンガアイランド事務室=電0225(21)4141(開館中)

★猫アート
島の至る所に、猫の顔を描いたブイが飾られている。
観光客による餌やりは禁止されていて、持ち込んだキャットフードを預かる箱も大きな猫の形になっている。

★海の幸
島民の多くは漁師で、島の民宿では、とれたての新鮮な魚介類が振る舞われる。
「網元」の夕食では、メバルの煮付けやアイナメの刺し身などが並んだ。
「島のえき」では、島でとれたカキのうしお汁も楽しめる。

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