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鶴の来る町ミュージアム

鶴の来る町ミュージアム 鹿児島県出水市 写実絵画の世界に没入

山本大貴さんの作品について説明する堂前栄二館長(手前)=鹿児島県出水市の「鶴の来る町ミュージアム」で

山本大貴さんの作品について説明する堂前栄二館長(手前)=鹿児島県出水市の「鶴の来る町ミュージアム」で

 最近、写実絵画を始めた。といっても描くわけではない。見るだけだ。手が届く作品があればいずれ買いたいと思う。

 そんな写実画ばかりを集めた美術館が最近、鹿児島県にできたと聞いて行くことにした。鶴の越冬地として有名な出水(いずみ)市の「鶴の来る町ミュージアム」。1月にオープンしたばかりで、JR出水駅からタクシーで15分くらいの田園地帯にある。

 ミュージアムに入るとすぐに階段で2階へ。展示室へ続く廊下には、あいさつ代わりに花を描いた数枚の作品が掛かっている。その中に、よくネットや雑誌で見る山本大貴(ひろき)さんの女性画があった。写真とみまがうほど精緻で美しい。まじまじと見詰めてしまった。これは展示室の作品にも期待が持てそうだ。

 私が写実画に興味を持ったのはほんの数カ月前。弊紙の「この人」欄で、愛知県小牧市の画家、岡靖知さんが紹介されていた。自宅から近いので親近感が湧き、岡さんのツイッターやネットの美術サイトで、現役画家の写実作品を数多く見るようになった。抽象的な現代アートは見る側に作品コンセプトを読み取ることを強いているようで好きになれないが、単純に見てきれいだなと思える写実画は抵抗なくスーッと入っていけた。

作者は(左上から時計回りに)石黒賢一郎、福井欧夏、中島健太の各氏

作者は(左上から時計回りに)石黒賢一郎、福井欧夏、中島健太の各氏

 その写実画が今、いくつも目の前にある。展示室は美しい女性や風景の絵画であふれていた。小木曽誠、生島浩、木原和敏、中島健太、卯野和宏の各氏ら有名、人気作家も多い。昨年、天皇、皇后両陛下(現・上皇ご夫妻)の肖像画を完成させた野田弘志さんの別の作品もある。

 これらは、税理士でもある堂前栄二館長(65)が、趣味で15年ほど前から収集したものだ。収蔵作品は380点あるといい、こんなにもコレクションできるなんてうらやましい。展示されているのはそのうち120点。座るところもあり、堂前さんは「ここに来てのんびり気晴らしをしてほしい」と話す。

 実際、独りでゆっくりと館内を巡り、写実的な絵を眺めていると、絵の世界に没入して他のことを忘れる。初めて見た石黒賢一郎さんの女性画は、妙な言い方だが、写真よりも実物のようで、見入ってしまった。近くには山本さんの女性画が2枚並んで掛けられており、時間をかけて細部を観察した。フラッシュをたかなければ誰でも撮影できるので、取材とは関係なく何枚か撮り、かなり満足した。

焼き物を製作する職人=同県日置市の沈寿官窯で

焼き物を製作する職人=同県日置市の沈寿官窯で

 鹿児島県入りする数日前、薩摩焼の窯元、14代沈寿官(ちんじゅかん)さん(92)の訃報が弊紙に載った。司馬遼太郎の小説「故郷忘じがたく候」のモデルで、親交もあった人物だ。窯元は同県日置市。このタイミングで知ったのも何かの縁だと訪ねることにした。

 沈寿官窯では、作品の収蔵庫や職人たちが実際に焼き物を作っているところを見せてもらった。沈一族は、16世紀末の朝鮮出兵に参加した薩摩の武将、島津義弘が連れ帰った陶工の末裔(まつえい)だ。当代の15代まで400年以上続いている。案内してくれた児玉尚昭さん(46)は「現在でも手作り。量産するので同じ形に整えるのが大変」と話す。

 薩摩焼は殿様が使った白薩摩と庶民が使った黒薩摩とに分かれるという。ちょうど自宅で愛用している黄瀬戸の焼酎グラスのふちがかけてきたので、売店で白薩摩のグラスを買った。

 自宅に帰って早速、買ってきたグラスで鹿児島の芋焼酎を飲んだ。相良兵六(さがらひょうろく)。香ばしくてうまい。やはり鹿児島の器には鹿児島の酒か。棚には富乃宝山や6代目百合、金峰桜井などの焼酎コレクションが並ぶ。これで十分だ。値の張る写実画は見るだけにして、これからも焼酎を買い続けよう。
 
文・写真 金森篤史

(2019年7月12日 夕刊)

メモ

地図

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◆交通
鹿児島へは羽田、中部国際空港から鹿児島空港へ。
空港から鹿児島市へは空港バスで40分、出水市へは1時間20分。
鹿児島中央駅から出水駅へは九州新幹線で24分、伊集院駅へは鹿児島線で18分。

◆問い合わせ
鶴の来る町ミュージアム=電0996(79)3977
沈寿官窯=電099(274)2358

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鹿児島市の高い丘の上に立地し、眺めがいいのが特徴。
玄関には油絵を飾るような額が置いてあり、桜島などの景色を入れて“インスタ映え”する写真が撮れる。
館内ではロダンの「考える人」のほか、シャガールやモディリアニ、ルノワール、セザンヌら巨匠の作品、地元の薩摩焼などが見られる。
電099(250)5400

★天然温泉足湯「おやっとさぁ」
鹿児島弁で「お疲れさま」の意。
鹿児島空港の国内線ターミナルビル1階の3番玄関脇にある。
2人掛けベンチが10台あり、空港利用客でにぎわう。

★鶴の来る町物産館
「鶴の来る町ミュージアム」に隣接しており、地元産の竹細工製品、アオサなどの海産物、みそやしょうゆ、野菜などが並んでいる。
電0996(79)3999

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。