コートダジュールの海岸沿いに、しゃれたホテルやブティックが立ち並ぶ南フランス・カンヌ。毎年5月に開かれる世界3大映画祭の一つ「カンヌ国際映画祭」の時期には世界中のスターが集まるリゾートで、市内での移動手段には困らないが、街はコンパクト。コバルトブルーに輝く海を眺めながらの街歩きをお勧めしたい。
海沿いを東西に延びる、全長約3キロのクロワゼット大通りに立つのは、映画祭の主会場パレ・デ・フェスティバル・エ・デ・コングレ。ここでは、映画祭のほかにも、さまざまな催しが開かれている。訪問時にはレッドカーペットは敷かれていなかったが、メインエントランスの階段を上った映画スターたちに思いをはせた。パレ前の広場には俳優らの手形も。近くのバスターミナルの建物には、映画のワンシーンのような壁画が描かれ、この街の象徴のようだ。
ターミナル脇から旧市街・シュケ地区へつながるサンタントワンヌ通りは、カンヌで最も古い道の一つ。漁民の家が並ぶ一帯は今も、中世の雰囲気が残っている。石畳の細い路地を上ると、街を一望できる丘にたどり着いた。丘の上には、要塞(ようさい)だった建物を改修したカストル博物館と、ノートルダム・ド・レスペランス教会が隣接し、展望台広場があった。
博物館には、アジアやアフリカの民族的な衣装や生活用品、楽器などが展示されている。中庭の高さ約20メートルの塔からも絶景を堪能できる。ゴシック様式の建物で厳かな雰囲気の教会には、観光客が集まっていた。40年来の友人と旅行で訪れたアイルランド・ダブリン在住のヒッチングさん(74)は広場のベンチに座り、「最高の眺め。いつまでも見ていられる」とうっとり、つぶやいた。
街には、オープンスペースのあるカフェやレストランが、ところ狭しと椅子を並べる。魚介やラム肉などの食材にニンニクとハーブ、オリーブオイルで風味を付けたプロバンス地方の伝統料理を出す店も多い。駅周辺には、土産物屋に交じってオリーブオイルやチーズの専門店や鮮魚店なども軒を連ねる。
西側には旧港があり、豪華なヨットが何10隻も停泊。船着き場から、カンヌ沖にあるレランス諸島のサントマルグリット島とサントノラ島への連絡船が出ていた。どちらも片道15~20分程度。地中海に降り注ぐ陽光に誘われ、乗船した。
サントマルグリット島には、刑務所として使われていた城塞(じょうさい)がそびえる。フランスの小説家アレクサンドル・デュマの作品や、レオナルド・ディカプリオ主演の映画のモデルとなった「鉄仮面の囚人」が投獄されていたと言われている。見学に来た小学生とすれ違い、「こんにちは」と日本語で話し掛けられた。フランスには親日家が多い。仕事でカンヌに来ていたパリ在住のフリージャーナリスト井筒麻三子さん(47)は「アニメや和食が好まれ、日本人より詳しい人もいる」と教えてくれた。
サントノラ島は、修道士たちが生活しており、静寂に包まれていた。中央にレランス大修道院があり、ブドウ畑が広がっている。修道院を見学できるほか、売店では修道士たちが造ったワインを買うこともできる。
古くからラベンダーなどの花やハーブの生産でも有名だったコートダジュール。街全体を甘い香りがうっすら漂う。セレブが集まるリゾートとしてだけではなく、ゆったり過ごせる“平常の顔”にもまた、魅力があふれていた。
文・写真 花井康子
(2019年11月29日 夕刊)
メモ
◆交通
カンヌへは、中部国際空港からヘルシンキ経由のフィンランド航空などでニース・コートダジュール空港利用が便利。
飛行時間は乗り換え時間を除き12~13時間程度。
空港からは高速バスで約50分、ニース駅からは高速鉄道TGVか在来線TERで25~40分。
成田、羽田空港からはパリ経由などでも。
パリ・リヨン駅からTGVで5時間超。
◆観光情報
フランス観光開発機構のホームページに日本語で詳しい情報が載っている。
おすすめ
★ガリマール
コートダジュール内陸のグラースにある香水工場。
100種類以上の香水の中から自分の好きな香りを選んで混ぜるオリジナル香水作りの体験コースがある。
体験修了の証明書がもらえ、帰国後に同じ香水を発注することもできる。
所要約2時間で予約制。
ホームページがあるほか、日本語の話せる講師も。
カンヌ駅からバスで約40分。
★魚介
新鮮な魚介を提供する鮮魚店やレストランは多い。
魚のあらを使ったスープには、クルトンやチーズ、ニンニクのソース「ルイユ」を添えて食べるのがプロバンス風。
キッチン付き施設に宿泊するなら、生のサーモンやカキ、カニなどを購入しても。