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義経逃避行を追い句作

義経逃避行を追い句作 青森県 悲運は壮大な伝説に

源氏の笹竜胆の家紋が刻まれた小田八幡宮の門=青森県八戸市で

源氏の笹竜胆の家紋が刻まれた小田八幡宮の門=青森県八戸市で

 源平合戦の英雄・源義経は奥州の平泉で地元の豪族藤原氏に討たれたとされる。でも本当は蝦夷(えぞ)(今の北海道)に逃げ延び、さらに中国大陸に渡ってジンギスカンになった-。若武者への哀れみから、そんな伝説が語り継がれた。

 俳人の松尾芭蕉は一説に、義経の慰霊で「奥の細道」を記した。芭蕉は青森を訪れることはなかったが、その衣鉢を継いで俳句を詠みつつ、本州の北の果ての青森県に残る義経の「足跡」をたどった。

 八戸市の小田(こだ)八幡宮。源氏の家紋とされる笹竜胆(ささりんどう)が彫られた表門をくぐると、小さなほこらが。義経(ぎけい)堂だ。今の岩手県平泉町を逃れた義経は、八幡宮のそばの高館(たかだて)の地に隠れたとされる。

 その際の生活を連想させる市内の国指定史跡が、根城(ねじょう)跡。天守閣が登場する前の城の形を伝え、鎌倉期にさかのぼるとも言われる。

 木造の建物群が復元され、主殿の一室では、等身大の人形で再現した甲冑(かっちゅう)や直垂(ひたたれ)姿の侍らが正月の酒盛りの最中。逃避行の義経主従が、つかの間のだんらんに興じる姿と重なった。

等身大の人形で再現した正月の儀式=青森県八戸市の根城跡で

等身大の人形で再現した正月の儀式=青森県八戸市の根城跡で

 木偶(でく)武者も酔舞(えま)ひて温(ぬく)き冬日かな

 義経を追い、「青い森鉄道」で北に向かう。車窓は一面に雪が積もる荒涼とした景色。途中、青森市の浅虫温泉で足湯に漬かり、寄る辺なき落人の心を思った。

 津軽平野に入り、五所川原市の津軽三味線会館へ。プロの男性が奏でる「津軽じょんから節」に耳を傾けた。力強いばちさばきで繰り出す、木訥(ぼくとつ)かつ繊細な音の波。平家を滅ぼし凱旋(がいせん)しながら、兄頼朝に疎まれて没落した義経の運命が、描き出されていくようだった。

 撥冴(ばちさ)えて牛若が笛肚裏(とり)に啼(な)く

 日本海が近づくと、海に接して十三湖(じゅうさんこ)が現れる。沿岸に、かつて十三湊(とさみなと)と呼ばれた有数の港町があった。ただ、栄えたのは義経の時代より後。今のひなびた町並みこそ、この辺りを通ったとされる義経の傷心を映し出しているはず。強さを増していく風に雪が舞い、水面(みなも)に溶けていく。

 雪風巻(ゆきしま)く日は暮れがたし湖(うみ)の邑(むら)

義経寺の本尊は、義経の「風祈りの観音」とも呼ばれる。海岸近くにある甲(かぶと)岩は、義経が風波を静めるよう竜神に祈って海中に投じた甲が岩になったものだと伝わっている

義経寺の本尊は、義経の「風祈りの観音」とも呼ばれる。海岸近くにある甲(かぶと)岩は、義経が風波を静めるよう竜神に祈って海中に投じた甲が岩になったものだと伝わっている

 津軽半島を北上。海岸で古びた漁業者の磯屋を所々で過ぎる。恨みを含むような曇り空。青森出身の作家・太宰治は「鶏小屋に似た不思議な世界」と記した。

 津軽海峡に至った。岸壁の上に登り、左右の仁王が守る山門をくぐると仏堂が姿を現す。外ケ浜町の義経(ぎけい)寺だ。義経主従はここから蝦夷に渡る際、順風を願って3日3晩、持参した観音像に祈ったとされる。寺はその観音像を本尊としている。

 白髪の老人から3頭の「竜馬(りゅうば)」をもらい、それぞれに義経と家来が乗って海峡を渡ったとも。3頭は、海岸にある厩石(まやいし)と呼ばれる巨岩の3つの洞穴につながれていたという。厩石は境内から眺めることができる。

 凍雲(いてぐも)や仁王呵々(かか)たる岬(さき)の寺

 竜飛崎(たっぴざき)に立つ。ごうごうと吹く海風。20キロ先に、北海道の渡島(おしま)半島がぼんやりと浮かんでいる。

 義経は平泉で討たれたとするのが歴史学の通説。でも、その魂魄(こんぱく)はきっと、この海を越えて大空を駆け巡ったに違いない。

 
竜飛崎の近くから、津軽海峡をはさんで北海道の渡島半島を望む。手前の岩は「帯島」と呼ばれ、義経が蝦夷に渡る際にここで帯を締め直した、との伝説がある=いずれも青森県外ケ浜町で

竜飛崎の近くから、津軽海峡をはさんで北海道の渡島半島を望む。手前の岩は「帯島」と呼ばれ、義経が蝦夷に渡る際にここで帯を締め直した、との伝説がある=いずれも青森県外ケ浜町で

 夜、竜飛崎の宿の風呂から渡島半島を眺めた。暗がりに細長く横たわる遠い町の明かりは、わびしい旅情を慰めるようだった。

 蝦夷の灯を恋ひてや冬の潮(しお)わたる

 文・句・写真 林啓太

(2020年1月17日 夕刊)

メモ

地図

◆交通
三沢空港からリムジンバスに乗り、1時間で八戸市の八戸八日町バス停へ。
ここからタクシーで小田八幡宮へは15分、根城跡は10分。
青い森鉄道八戸駅から電車に乗り換え、70分で浅虫温泉駅。
同駅から青森駅へは25分。
津軽三味線会館までは車で50分。
同館から十三湖まで20分。
義経寺はJR津軽線・三厩(みんまや)駅から徒歩35分。
竜飛崎は同駅からバスと徒歩で40分。

◆問い合わせ
青森県観光連盟=電017(722)5080

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★八食センター(八戸市)
食品市場。
八戸港など地元で水揚げされたタラやキチジ、イカなどが並び、海鮮丼が目玉。
買った魚介を焼いて食べる施設も備える(有料)。
地場産のリンゴ「ふじ」など農産物も販売。
電0178(28)9311。

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川と海の水が混ざり合う十三湖はシジミの産地で、地元の飲食店が提供する「しじみラーメン」が名物。
うま味が身からにじみ出て、さっぱりした塩味を引き立てている。

★青函トンネル入口広場(今別町)
北海道と青森を結ぶ北海道新幹線・青函トンネル(53.85キロ)の、本州側の入り口。
展望台からは、列車がトンネルを出入りする迫力の情景を見ることができる。
今別町=電0174(35)2001

※掲載された文章および写真、住所などは取材時のものです。あらかじめご了承ください。

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