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高雄 民の誇り壊さないで

2010年04月14日

「故郷への思いは強い。でも、あんな大水害があると、やはり怖い。仕方ない」。昨年8月に台湾を襲った台風8号で被災した先住民族の男性(61)。春節(旧正月、今年は2月14日)を前に、台湾南部の高雄県杉林郷に建設された永住用の復興住宅に移り住んだ。

馬英九政権は、台風襲来から1年の今年8月までに家を失ったすべての被災者が入居できる復興住宅の建設を進めている。杉林郷の住宅は大企業が土地を提供、慈善団体が協力して約750戸が一足早く完成した。

ただ先住民の思いは複雑だ。伝統が失われるとして「故郷に帰り自主的に再建したい」という声は根強い。入居に踏み切った男性も「ブタを分け合う祭事ができないなど生活の制約が多い」と嘆く。

入居を祝う式典には馬総統も駆け付けた。「着工からわずか3カ月で荒野が桃源郷になった」と自慢したが、先住民に対するねぎらいの言葉は一言もなかった。強い違和感を持った。 (栗田秀之)