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ニューヨーク 寒風にめげぬ失業者

2011年04月15日

 その男性(33)は「誰も話したくないのなら私が話す」と、おもむろに立ち上がった。ニューヨークの最貧困地域、サウスブロンクスの職業安定所。求職ガイダンスを待つ失業者に「暮らしぶりを教えてほしい」と声を掛けたときのことだ。

 建設会社が倒産し、約1年前に失業。家賃1200ドル(約9万9000円)の1DKに家族3人で暮らしている。妻のパートで何とかしのいでいるが、食費を削らなければ娘の学費が払えない。職安に週3回通っても、都市の「底辺」には仕事がなかなか回らない。

 男性はそれでも明るく振る舞い、「世の中には3つのタイプの人間がいる」と話した。物事が起きるのをじっと待つ人と、起きた結果に一喜一憂するだけの人。そして、物事を自分で切り開こうとする人。「私は3番目でいたい。そうすれば必ず幸運をつかめると信じているんです」

 全米の失業者数は約1400万人。中間層の消費が活発化して景気が上向きつつあるが、厳冬の街をさまよう失業者の姿は、米社会の「格差」を痛いほど見せつけている。

 「仕事が決まったら教えるから」。男性と握手で別れてもうすぐ1カ月だが、交換した電子メールにはまだ連絡がない。「職探しはまるで福引だ」と話していた彼を、当たりくじはまた見放したのだろうか。 (青柳知敏)