2011年08月05日
「僕、(音楽家としての)プライドが無いんです」
モスクワなどで6月中旬に開幕した若手音楽家の登竜門「チャイコフスキー国際コンクール」。ピアノ部門に出場した犬飼新之介さん(29)が予選直前、モスクワ在住の日本人有志による壮行会でそう言った。
会場になった個人宅のピアノで即興の独演会。観客は少々、酔いが回った素人ばかりだったが、リクエストに応じて何曲も見事な演奏を披露してくれた。
一流のピアニストといえば、耳の肥えた聴衆の前や、調律済みのピアノでしか演奏しないイメージがあったが「どんな場所でも、どんな人でも楽しんでもらえることが一番うれしい」と犬飼さん。
そのためなら、かしこまったプライドなんていらない、というのが犬飼さんのプライドなのだろう。
残念ながらコンクールは1次審査で落選。独自の表現を盛り込んだ演奏はピアニスト仲間から「チャイコフスキーらしくなかった」との評価もあったという。
一定の型を外さない「らしい」演奏の方が審査員の点は甘かったのかもしれない。
ただ、予選での演奏終了後、立ち上がって何度も「ブラボー」と叫ぶ人たちの表情を見た限り、その音が大勢の聴衆を楽しませたことは間違いなさそうだ。(酒井和人)