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モスクワ レジでの攻防採算は

2012年02月22日

 モスクワにあるフランス資本のスーパーで、ジュースのパックを手にレジに進んだ。しかし、この商品のバーコードが読み取れない。レジ係の女性は不機嫌そうに「フン」と鼻息を荒らげ、レジ台の下の廃棄かごにパックを投げ入れたまま知らん顔。「売れない」と言いたいらしい。

 最近は少なくなったが、レジ係が無愛想なのは旧ソ連時代からの伝統だ。理由の説明を求めると、レジ係が怒りだした。「おまえは今日、本当にジュースが飲みたいのか!」

 意味不明の質問に、ひるむわけにはいかない。なぜ自分がジュースを飲みたいのか、10分以上、ムキになって反論した。レジの行列のロシア人たちも「何だ、その言い草は」と加勢してくれた。

 ようやく店長が来て理由が判明。賞味期限を超えていたため、バーコードが読み取れなかったのだ。古い食品販売が分かると、店は10倍の量の新品と交換するのが、最近の流儀。食の安全に関する法律の厳罰化が理由とは、後で知った。

 それはともかく、1パック分の値段で新品10パックが手に入った。100ルーブル札を出すと、おつりは何と1ルーブル硬貨が50枚。50ルーブル札1枚で済むのに、面目をつぶされたレジ係のささやかな抵抗だった。小銭入れをパンパンに膨らませて、仕方なく店を去る羽目になった。「負けた…」(原誠司)