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ヨーク 癒えなかった心の傷

2014年02月25日

 イングランド北部ヨークにある戦争博物館で、父親が第2次世界大戦中に日本軍の捕虜になったというローラさんに出会った。

 父親ヤンさんはオランダ人。オランダ領だったインドネシアで捕虜となり、ビルマ(現ミャンマー)に移送されて1942年末から半年間、タイとを結ぶ泰緬鉄道の建設に従事させられた。

 生前、当時のことはほとんど家族に話さなかったという。わずかに聞いたのは、バナナなどの食料を服の中に隠し、いかに監視員を欺いたかという自慢話ぐらい。見つかった捕虜は、全部食べさせられた上で吐かされ、あばら骨が折れるまで踏み付けられたそうだ。飢えと赤痢で多くの捕虜が死んでゆく中で、ヤンさんは日本人監視員が内緒で檻(おり)の中に差し入れてくれた卵で生き延びた。

 44年12月、シンガポールから船で日本へ。今度は山口県の宇部港に近い本山岬の炭鉱で、強制労働をさせられた。満足な食料や衣服のない捕虜たちは移送中に寒さで多くが息絶え、炭鉱でも。ヤンさんは栄養失調で、最後は立って歩けなくなった。

 「父は、同じ年代の日本人と話すのは絶対に嫌だと言っていました」

 トラウマ(心的外傷)は、20年前に他界する最後まで癒えることはなかったという。 (石川保典)

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