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コラム 花紀行

三重県伊賀市「余野公園」のツツジ

三重県伊賀市「余野公園」のツツジ

今春は暖かい日が多く、
サクラをはじめとした様々な花の咲き始める時期が
例年より概ね1週間~10日ほど早いと聞きます。

そこで、
例年なら5月上旬~中旬に見ごろを迎える花を
先取りして見られるのではと思い、
約1万5千本のツツジが楽しめるという
余野公園(三重県伊賀市)へ行ってきました。

↑余野公園の入り口。
なんと、まだサクラ(ヤエザクラ)が咲いています(写真上)。
また同園は三重県と滋賀県の県境にあり、
公園のすぐ北側はもう滋賀県甲賀市です(写真下)。

総面積がおよそ8万平方メートルある余野公園は、
1897(明治30)年ごろから徐々に整えられた公園で、
1968(昭和43)年、鈴鹿国定公園特別地域(第1種)に指定されました。

北側は滋賀県に接し、
東側には倉部山(くらぶやま)や油日岳(ゆにちだけ)など、
標高600~700メートル前後の山々が横たわっています。
いずれも、鈴鹿山脈の最南端を形成する山たちです。

この辺りには昔からツツジが自生していたようで、
公園管理棟に置いてあった案内によると、
崇徳院(平安後期)が以下のように
詠まれているそうです。
「くらふ山 木の下かげの岩つつじ
ただこれのみや 光なるらん」

↑園内案内図。
西側は広大な芝生広場となっており、
南部に蒸気機関車の展示スペースが有ります。
林になっている東側の南部には
「前モッコ山」と「後モッコ山」と呼ばれる小高い丘があり、
自生ツツジは主にこの辺りで見られます。

全体的に北部スペースは、キャンプができるようになっています
(無料ですが、予約が必要とのこと)。

園内の管理は、
地元の年配の方々が担っていらっしゃって(同園管理協力会)、
コロナ禍前は毎年5月第2日曜に「つつじ祭り」を実施していたそうですが、
最近はイベントを行っていないとのこと。

それでもツツジを見に来てくれる人たちに
少しでも楽しい気分になっていただこうと、
ツツジの開花期には芝生広場に提灯を飾っているのだそうです。

↑芝生広場から東を見たところ。
朱色のヤマツツジの花が咲き始めていました。

園内のツツジは自生のものが主ですが、
歳月を経て減りつつあるため、
植栽も試みているとのことで、
若木が植わっているスペースもありました。

↑日本原産のヤマツツジの樹高は1~6メートルとされており、
ここでは3~4メートルほどの木が多いように感じます。

生け垣などで見慣れている園芸品種と比べると、
伸び伸びとした枝振りが新鮮で、
ツツジとは思えない、別の花のようです。

↑まだまだ咲き始めとのことでしたが、
日当りの良い場所ではかなりたくさん開花しています。

↑まだ咲いている花が少ないエリアでも、
ちょっとした日当り具合で、
咲いているスポットが混じっています。

↑舗装されていない散策路は、
どこを通ってもツツジが咲いていて、
「ツツジの迷路」のようでワクワクします。

↑後モッコ山を見上げたところ。
上の方にサクラも咲いています。

同園管理協力会の方のお話では、
一帯は昼夜の寒暖差が大きく、
サクラやツツジの開花期も都心部より遅いそうです。

サクラとツツジが同時に見られるなんてラッキー
と思いながら散策を続けます。

公園の南側も森林になっていて、
ウグイスやヤマガラの澄んだ声が聞こえてきます。

「わー、気持ちいいなあ」と思わずつぶやきながら、
どんどん足が前に出ます。

↑後モッコ山の中腹から見下ろしたところ。

↑サクラとツツジの競演が本当にキレイです。

↑前モッコ山から下る道。
やはり両側でツツジが出迎えてくれています。

↑ちょっとピンクっぽい赤色のツツジの花。

この時期に園内で咲いているツツジは、
花びらが朱色のヤマツツジと淡紅紫色のモチツツジ、
そして両者の自然交配種であるミヤコツツジの3種類とのこと。
見るからに朱色の花はヤマツツジなのかなと思いますが、
実際はどれがどれやら区別がつきません。

↑つぼみと咲いた花。
この株の花は小ぶりで、葉はまだ出ていません。

↑この株は花が大きめで、葉も茂っています。
真ん中下部でこちらに向かって顔を出しているつぼみが
ドリルのように見えて面白いです。

↑真っ赤な花。
葉は少し出ているようです。

↑赤紫色の花。
花はまだ咲きかけなので、
葉が出る方が先だったようですね

↑つぼみ2種。
枝の先に固まって付いていますね。
左の状態から、右の状態に移行するのかな。

園内のツツジの開花はやはり全体的に例年より早く、
ゴールデンウィークが見ごろになるのではとのことでした。

園内では、
ほかにも季節の花などが目を楽しませてくれました。

↑ヤエザクラ2種と、ヤマザクラかな。
ヤエザクラは品種がたくさんあって、同定が難しいですね。
いずれも樹高がかなり高く、花も高いところで咲いていました。

↑木の花3種。
左から順にモミジ、ドウダンツツジ、ミツバアケビ
(いずれも推定)。

↑左上から時計回りに
ノジスミレ、タチツボスミレ、トキワハゼ、ツボスミレ
(いずれも推定)。

↑蒸気機関車が展示されている「SLの丘」。
1942(昭和17)年から1973(昭和48)年まで、
東海道本線や山陰本線、関西本線で活躍した
「D51-831号」(総走行距離は約201万940.5キロ)が、
伊賀市蒸気機関車保存会によって大切に展示・管理されています。

↑日本の高度成長期を支えたSLの顔。
実際に中に乗り込めるようになっています。

間近に見る機関車は重厚感があり、
すごい迫力です。

石炭をくべる炉と運転席がすごく近くて、
夏は暑かっただろうなあ、
風や雨、雪の日は大変だったろうなあ、
と、しみじみとしてしまいました。

説明板には、
概要や経過歴、主要数値など、
かなり細かいプロフィールが書き込まれていて、
とても勉強になります。

「余野」という地名は、
何百年という昔、
農民たちが厳しい生活の中から共同の憩いの場として作り出した
「余り野」が語源と伝わっているそうです。
素敵なお話ですね。

またモッコ山は、
神話の時代に、
ダダボーシ(デイダラボッチ)が琵琶湖を作るために掘った土を
駿河の国に運ぶ途中でここを通る際、
モッコ(土を入れて運ぶ網)からこぼれ落ちた土からできた
という伝説も残っています。

歴史が息づく自然豊かな公園で、
素朴で気持ちの良い一日を過ごすことができました。

夏はアジサイや鈴虫狩り、
秋はハギの花や紅葉など、
四季折々の楽しみがあるそうなので、
違う季節にまた訪れてみたいと思います。

感染症には十分気をつけて、
四季のある日本ならではの旬の花を楽しみましょう。

取材日:2023年4月22日

DATA

余野公園

三重県伊賀市柘植町1065-4
TEL:0595-45-6421(余野公園管理協力会)
※入園自由。
※公園管理棟は午前8時半~午後5時開館(午後0時半~1時半は閉館)。原則毎週水曜定休(ほかに、不定休がある可能性あり)。園内にある蒸気機関車の見学は午前8時半~午後4時半。

交通アクセス

○公共交通機関
JR関西本線「柘植駅」から北西へ徒歩約25分(東海自然歩道ルート)。
○車
名阪国道・上柘植ICから北東へ約4キロ。
※無料駐車場有り。

取材担当プロフィール

まころーど
名古屋生まれ、名古屋育ち。
季節の移り変わりを観察するのが大好きなアラフィフ世代。新聞記事制作や、出版社にてガイド本等の制作経験あり。
現在は、旅や町ネタに関する記事を執筆しています。観光や販促のお手伝いも。