2011年12月13日
「今はまだ帰ってくる数が5%と少ないので捕獲は禁止です」。講師の男性職員は続けた。「だからノルウェーやカナダから輸入されるサケを店で買って食べてください」
産卵のため日本海から遡上(そじょう)するサケが見られると知り、韓国北東部の町、襄陽(ヤンヤン)を訪ねた。偶然、川べりの施設で今年初めて開催中だった「サケの学習会」に参加できた。
施設は水産資源化を目指し、サケから採取した卵を人工ふ化し、稚魚を放流している。学習会はサケの生態を紹介し、参加した親子連れはサケを手で捕まえる体験もできた。
講師の尹●根(ユンムングン)さん(37)は北海道大で学んだ“サケ博士”。「おすし、鍋、卵(イクラ)…。将来、日本のように襄陽のサケ料理を食べられるようにしたい」と夢を語った。
同じ日、車で約30分北に走った束草(ソクチョ)市も訪ねた。朝鮮戦争時に南に逃れ、戻れなくなった高齢者が多く住む。北朝鮮までは約50キロ。昼食に入った食堂を営む82歳の女性が嘆いた。「すぐそこなのに戻れず、こんな年になってね」
サケは、はるかカナダ、アラスカ沖まで回遊し3~5年後に戻ってくる。故郷の川の水を懐かしむように穏やかに泳ぐその姿をふと思い出し「きっと帰れますよ」との言葉をのみ込まざるを得ないやり切れなさを感じた。(辻渕智之)
(注)●は、さんずいに「文」