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カイロ 聖地「美化」の本音は

2012年12月13日

 「民衆革命の聖地」。その急な様変わりに一瞬、目を疑った。カイロ中心部タハリール広場。ムバラク政権を崩壊に追い込むなど民主化デモが昨年来、繰り返されてきた。

 「広場」は、普段は交通量の多いロータリー式の大型交差点だ。中心にはソフトボール場ほどの円形地帯。デモの際は、周辺の道路を封鎖して空間を広げ、群衆が占拠する。

 土ぼこりのする円形地帯はデモがあると薄汚れたテントが並び、熱気であふれた。治安当局と衝突し多くの若者が落命。血と汗と催涙ガスがしみ込む。

 ところが最近、政府の主導で円形地帯は芝や樹木が植えられ、外構工事で周囲はピカピカに。一角に、活動家らが犠牲者の顔や政権批判の風刺画を描いた長さ50メートルほどの壁があるのだが、白ペンキで塗りつぶされた。

 怒った若者らが協力して描き直したが、残念ながら以前の迫力は失われてしまった。

 カンディール首相は、「広場を観光地に」と指示。当局は、円形地帯でのデモを禁じる方針との報道もある。イスラム新政権が、広場の美化を名目に、自らを批判するデモ封じを狙っているのではないか、との疑いだ。

 街から民衆革命の痕跡が消え、よそよそしい観光地となるのは寂しい。デモを禁止した旧政権のような時代には戻らないよう、願っている。 (今村実)