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ハンガリー・バラトン 忘れ去られた功労者

2020年03月05日

 元首相は、えらくご立腹だった。ハンガリーの首都ブダペストから西へ車で2時間ほどの保養地バラトン湖。湖畔の別荘でネーメト・ミクローシュ氏(71)にインタビューした。

 1988年に首相に就任したネーメト氏は翌年、隣国オーストリアとの国境にある鉄条網を撤去。その決断がベルリンの壁崩壊につながった。怒りの理由は、「汎ヨーロッパ・ピクニック計画」30周年式典に招待されなかったからだ。

 親睦目的のピクニックでは一時的にオーストリアとの国境が開放され、ハンガリー国内にとどまっていた東独国民600人以上が越境した。政府には、鉄条網撤去に対する軍事介入が懸念されたソ連の出方を見極める狙いがあったという。

 今年8月に行われた式典でハンガリーのオルバン首相は「私たちは東から壁を開き、ドイツ統一への道を切り開いた」と演説。「鉄のカーテン」に風穴を開けた当時の首相を招かず、自分の手柄のように発言した同氏を批判したのはスイス紙だった。ネーメト氏は嘆いていた。「壁崩壊30年を前に取材に来たハンガリーの記者は1人しかいなかったよ」 (近藤晶)