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ロシア・カルーガ 難聴の科学者に学ぶ

2020年05月09日

 首都モスクワから電車で南西に3時間も走ると、カルーガという小さな街に着く。ロシア人はこの地名を聞くと「宇宙」を思い浮かべるとか。

 ここで半生を過ごしたのが科学者でSF作家ツィオルコフスキー。20世紀初めに宇宙旅行が実現可能であると唱え、ロケットを構想した。街の人に聞いて知ったが、彼は幼い頃の病のため難聴だった。

 耳の不自由な宇宙科学者。

 ふと気付く。そもそも天文学者と「聴くこと」は切り離せない。惑星の自転と公転で宇宙にたえなる音楽が流れていると、古代から信じられてきたから。宇宙の神秘に思いをはせ、惑星の奏でる音色を解き明かすことが学者の夢だった。

 ツィオルコフスキーは努力の人だった。難聴の青年を受け入れる学校もなかった。本を読みあさり、耳には漏斗のような道具の細い部分を当て、周囲の音をかき集めた。そして宇宙旅行の理論を打ち立てた。

 ツィオルコフスキーは私たちにこんなふうに教えているのかもしれない。

 「外に注意を向けなさい。もっと世界を知らなくては」と。 (小柳悠志)