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ロシア・イボルギンスキー 抑圧乗り越えた信仰

2023年01月16日

 ロシア極東に、チベット仏教を信仰するモンゴル系住民が暮らすブリヤート共和国がある。ブリヤート人は日本人とそっくり。現地の人と話すと、会話はロシア語なのに相手が日本人のように思えてくる。

 チベット仏教寺院があるイボルギンスキー集落を訪れた際、タクシーの運転手は見どころを車中で説明してくれた。寺院には涅槃(ねはん)に入り、腐らず残る高僧の肉体があるという。「あれこそ奇跡。見たら感動する」とのこと。

 「まるでレーニンですね」と私は冗談まじりで返した。ソ連建国を主導した革命家レーニンの遺体は特殊処理を施され、モスクワの赤の広場のレーニン廟(びょう)に眠っている。運転手は「ワハハ」と笑ってから、真顔になって向き直った。「いや、レーニンとは全然違うから」

 イボルギンスキーの寺院は神秘的だった。華やかな色使いの建物、動物を模した文様。そして朽ちずに座している僧の体。宗教が抑圧されたソ連時代を乗り越え、チベット仏教が復興したことに感じ入った。ロシアには約200の民族が暮らすとされる。国家こそ一つだが、内側に広がりがある。 (小柳悠志)