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英グリムズビー ほっこり 豪快な港町

2020年06月28日

 「Get out(出て行ってよ)」

 3月上旬の深夜、出張先のホテル前で喫煙していると、女性の甲高い声に驚かされた。間もなく、はす向かいのバーから男性数人が店の外へ。けんかで退店を命じられたようで、男性らは路上で小競り合いを再開した。止めようとする近隣住民も現れ、一帯は一時騒然となった。

 北海に臨む英東部グリムズビー。往時と比べれば漁師と漁船は激減したが、今も国内外の魚介類が集まる。やはり港町の気質は豪快なのかと思っていると、後ろから「こっちへ来いよ」と声を掛けられた。がっしりした初老男性が立っていた。

 脳裏をよぎったのは、新型コロナウイルスによるアジア人への差別だ。この街の薬局でも消毒液は売り切れで、住民の不安は強い。初老男性に国籍を尋ねられた時、私は暴言に身構えつつ「日本人だ」と答えた。

 すると、初老男性は「遠くから来てくれてありがとう」と満面に笑み。私をハグし、手をぎゅっと握ってくる。やはり、港町は豪快だと温かい気持ちになった。ただ、申し訳なく思いつつ、ホテルの部屋へ戻ると手を洗った。 (藤沢有哉)