2020年10月08日

　モスクワ地下鉄「彩りの並木通り駅」近くを通るたび、日本人っぽい顔立ちの女性が目についた。ほつれた白髪。日焼けした鼻。「散髪は１４９ルーブル（約２３０円）」と書かれた理容店の広告板を背負っている。

　新型コロナウイルス感染予防のための外出制限が終わった先日、この女性と話すチャンスが訪れた。駅近くを散歩していると、女性が話し掛けてきたのだ。「散髪でもどう？　私に店まで案内させておくれ」

　理容店は雑居ビル２階。散髪を終えて外へ出ると、女性は石に腰掛けて休んでいる。

　私を見ると「おかげで稼げたよ」とにっこり。給料は出来高払いで、客を１人呼び込むと店から３０ルーブル（約４５円）をもらえる仕組みだとか。

　出身は、日本人そっくりの人々が住む中央アジアのキルギスだという。中央アジアから来る出稼ぎ労働者はロシア経済の黒子。不況の時に真っ先に首を切られるのも彼らだ。

　近いうちにまた案内してもらおう。少しでも生活の足しになるのなら。「また来ます」。別れ際に声を掛けると、女性はマスクに収まりきらない笑顔を返してくれた。　（小柳悠志）