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中国・天津 場違いに美しい公園

2020年12月16日

 天津市の臨海部は大型トレーラーが砂ぼこりをたてて走る工業地帯だ。しかしその真ん中にある「海港公園」では場違いなほどに芝生の緑が美しく、石畳の遊歩道は清潔そのもの。整然と並ぶ木々の幹は細く、公園がまだ新しいことを物語る。

 公園は、5年前の夏に爆発事故が起きた危険物倉庫の跡地につくられた。だが園内には事故に関する記念碑や追悼施設はない。爆心地とみられる小高い丘は芝生で覆われ、爆発の痕跡も見当たらない。160人以上が犠牲となった大事故の跡地としてはあまりに冷淡だ。

 利用者の話を聞こうとしばらく園内にいたが、誰も通らない。周辺は工場ばかりで公園の来訪者が少ないのは明らかだ。園内に3カ所ある公衆トイレはすべて施錠されていた。

 当局はコンテナ内の危険物質が自然発火したことが原因と発表したが、習近平体制を標的にしたテロという説を信じる人は今もいる。北京の大学関係者は「発生直後から被害を矮小(わいしょう)化する当局への不信感が背景にある」と話す。人の気配がしない美しい公園は、爆発の記憶を消し去ろうとする当局の強い意志を感じさせた。 (中沢穣)